オレたちのロボット物語『ブルバスター02』
ロボットを通して描かれる「会社」
マジンガーZ、ゲッターロボ、ガンダム、マクロス、エヴァンゲリオン。
フィクションの世界、とりわけアニメの中で巨大ロボットは多く描かれてきました。
総じてそれらの見所は、ビーム砲やミサイルが乱れ飛ぶような派手なバトルシーンかと思いますが、その逆を行くのが『ブルバスター』シリーズ。今回読んだのはその第2巻、『ブルバスター 02』です。
ストーリーの軸が龍眼島という孤島に現れる謎の巨獣を退治する、というものなのでもちろんバトルシーンはありますが、経費削減のためにミサイル1発も惜しみながら戦います。
巨獣以上に戦わなければならないのが、経費、就労規則、人員確保といった、会社や法令のしがらみなのです。
たとえば
- 巨獣が現れているのですぐにでも出動したいが、雇用契約を締結していないから出動できない
- 船舶免許の期限切れのため巨獣のいる島まで出動できない
- ロボット搭乗用のスーツが制作ミスでサイズが合わず、搭乗できない
- 巨獣確保のための装置が高価すぎて導入できない
- 出動(連勤)が続くと労働基準法にひっかかるので強制的に休暇をとらされる
など、従来のロボットものではあり得ない地味な障害が次々と立ちはだかります。
そもそも「ブルバスター」というロボット自体が、巨獣退治にあたっている波止工業という建設会社が重機メーカーの蟹江技研に「リース」で借りている機体であり、主人公の沖野もその操縦士兼メンテナンス係として蟹江技研から「出向」しているという設定。
なんとも力の抜ける設定ですが、波止工業の経営状況が明らかになっていくにつれ、ビジネス的に考えればそれも当然、と頷くリアリティがあります。
それら会社や事業としてのリアルさをロボットものに持ち込んでしまうミスマッチがこの作品の最大の魅力です。
2巻で登場する新キャラにイライラ
もう一つの魅力がキャラクター。
アニメ化も狙っているということで、登場するキャラクターがしっかり立っています。
ヤル気に満ちるがちょっと空回り気味な主人公、沖野。
クールな操縦士でヒロイン的存在のアル美。
豪快で後輩思いな操縦士、武藤。
責任感と行動力のある尊敬すべき社長、田島。
融通の効かないコストカッター、経理担当の片岡。
ムードメイカーの事務、みゆき。
さらに今回の『ブルバスター 02』では、一筋縄ではいかない新キャラクターが登場します。
波止工業をバックアップしている大企業から、研修という名目でやってきた新人、鉛修一(なまりしゅういち)。新人とはいえ主人公の沖野より年齢は少し上で、一流大学出で成績優秀という鳴り物入り。
ところが迎え入れてみると、会社の先輩である沖野にもいきなりタメ口で話すいけ好かない奴で、巨獣が現れていても定時帰宅厳守、業務にないことはやらない、「帰れ!」と発破をかけると本当に帰ってしまう、という現代っ子ぶり。
融通の効かなさでいうと経理の片岡もそうですが、それは会社を守りたいという思いから。しかしこの新人・鉛のほうはその根にあるのが自分を守ること、にありそうなのでただただムカつくヤローとして描かれています。
でも…!
その地に落ちた鉛の高感度が、終盤で一気に爆上がりする展開があるのです。
それによってまんまと「鉛ー! 好きだー!!」となってしまった私。
結果、愛すべきキャラばかりが出てきます。
この2巻ではもう一人、物語のキーになるであろう重要なキャラクターも登場しますが、それは読んでからのお楽しみに…。
大人のためのロボット物語
子供の頃はあんなに熱狂していたフィクションの世界。大人になった今、下手に知識が増えてしまったがためにいつの間にか冷めた目で見てしまっていることも。
宇宙空間での物理法則を無視した戦闘シーン、消防法にひっかかりそうな危険な建築物、一般人のほうが先に犯人にたどり着いてしまうガバガバな捜査能力の警察…。
ヒーローものを見ていても、「この変身グッズ、おもちゃ化したとき売れそうだなぁ」などという思いがよぎってしまいます。
そんな、フィクションをまっすぐ楽しめなくなってしまった大人だからこそ楽しめるのがこの『ブルバスター』。
先述のような会社のしがらみはもちろん、出動が終わったあとのスーツはクリーニングに出す、大きな怪我は長期間治らない、など、フィクションであることを逆手に取った過剰なリアリティに逆に突っ込みたくなる展開が続きます。
1巻に登場するデザイン会社とのやりとりや巻末付録の見積書も、実際にこの本にかかわるプロジェクトで依頼したデザイン会社とのそれを参考にしたという徹底ぶり。
特に前職でウェブサイトの制作をしていた私にとって、片岡の「企画費ってこんなにかかるの?」の発言には胸を痛めました。笑
ロボットのデザインも、おもちゃ化したときの商業性よりも作品内での経済的、合理的な正しさを優先するため、顔をつけなかったそう。
ロボットに顔をつけるかどうか問題。実用的には顔はいらない。おもちゃを売って商業的に成立させるには顔がないと完全にNG #0823ブルバスター大株主総会 pic.twitter.com/RxwA0YhrPw
— バフォメット柳生 / Baphomet Yagyu (@bpm8q) August 23, 2019
しかも少年少女が主人公のロボットものとは違い、主要キャラが皆成人済み。勤務後にせんべろで仕事の愚痴を言いながらビールを飲むシーンもあり、「わかるー!絶対美味いやつー!!」と喉が鳴りました。
ロボットもので実はできていなかった、自分ごと化がすんなりできるのは登場人物が大人で、ロボットを通じて描かれているのが「会社」だからこそ。
納品データを間違えたり、急ぎのときに限ってプリンターが壊れたり。随所に散りばめられた社会人あるあるにもニヤり(ヒヤり)とさせられるこの作品。
そして1巻の表紙が主人公である沖野ではなくヒロインのアル美なところには逆に商業的な戦略を感じられて趣深いです(2巻で晴れて主人公が表紙に!)。
また2巻の発売に合わせて実施しているTwitterキャンペーンも、当初10月いっぱいまでとしていたのを12月まで延期しているところにも大人の事情が垣間見えて酒が進みます。
『ブルバスター』がロボットアニメで育ち大人になったオレたちのものであるのと同時に、ブルバスタープロジェクトにも現在進行形で参加できる、2重の意味でのオレたちのロボット物語。
売れセンの眉村ちあきさんに社歌を作ってもらったことがどう作用するのかも注目ポイント。
第3巻はもちろん、今後のブルバスタープロジェクトの展開が楽しみです。
この記事を書いた人
バフォメット柳生
、千葉県生まれ。ウェブ制作会社 → 出版社のウェブ担当。地下のライブハウスにいがち。ぬか床育て中。