玉子は旨くてみんな好き『玉子ふわふわ』
「シブカル祭」というPARCOが若手クリエイターを集めるカルチャーイベントの2013年に、クリエイターがおすすめする文庫にオリジナルのしおりをつけて販売する、という企画があった。
そこで「DJみそしるとMCごはん」さんがチョイスしていたのがこの『玉子ふわふわ』。
伊丹十三、北大路魯山人、向田邦子など37人の作家による玉子にまつわるエッセイなどを集めた一冊です。
それぞれ2ページから10ページほどの短いエッセイだけど、その中に玉子をめぐる思い出や玉子料理の作り方の数々が濃厚に凝縮されて詰まっている。
なおかつ1本のだし巻きを丁寧に作るような作品、数々の玉子料理の盛り合わせのような作品、定食の中にそっとゆで卵を置くような作品など、37人でそれぞれ37の味付けになっているのが玉子という存在の身近さと可能性を示しているよう。
(ところで章の間のコラムに『赤毛のアン』に玉子を36個も使ったケーキが出てきて驚いた、というエピソードがあって、どうせなら作家も36人にしたほうが伏線が効いていいのでは、と思ったけど、こういう大勢の人がかかわるプロジェクトになると色んな事情が絡んで、狙ってもうまくいかないことがある、というのを大人な私はもう知っている)
確かに玉子の思い出、と考えて挙げて見るとけっこうたくさんある。
子供の頃にガラスみたいなゆで玉子を作る実験をしたこととか、
昔の彼女がラーメン屋で煮玉子くれたこととか、
目玉焼きを作るときに親がやっていた、ベーコンを敷いた上で焼く方法を自分も今だにやっていることとか、
お嬢様を誘ってオムライスを食べに行ったたいめいけんで初めてロータリークラブというものの存在を知ったこととか、
平面じゃなくて角にぶつけたほうが割れ目が直線になって片手で割りやすいのを最近発見したこととか、
フランスに留学したとき市場で玉子の発音がなかなか聞き取ってもらえなかったこととか(単数形の発音は「ウフ」だけど複数形は「ウー」になるのを知らなかった)、
モン・サン・ミッシェル観光したときにあえて食べなかったオムレツ、どんな風に不味いのか知るために食べればよかったとか、
1パックの玉子全部、黄身が双子だったことがあるのに写真撮ってなくて悔しかったこととか。
記憶の端々にこびりついている玉子の思い出をかき立てられながら、少しお腹が空く文庫。
とりあえず玉子かけご飯にマヨネーズ入れるのはあとでやってみよう。
この記事を書いた人
バフォメット柳生
、千葉県生まれ。ウェブ制作会社 → 出版社のウェブ担当。地下のライブハウスにいがち。ぬか床育て中。